2014/04/18

大切な事は水平線の下にある(その1)ー目の前に広がる世界がいかに違うかー

『大切な事は水平線の下にある』
佐藤正治 x オノ セイゲン

インタビュアー:根本 "マッシュ" 智視
(サイデラ・マスタリング スタジオマネージャー)

サイデラ・マスタリングでは、ふつうのCDマスタリングの際に、同時にハイレゾのマスターを作成することを推奨しています。Ototoyより、DSD 5.6MHz、PCM 24bit/192kHzでリリースされる『MASSAⅡ』のDSDマスタリングを完了したばかりの、ヒカシューのメンバーとしても知られる佐藤正治さんと弊社シニアエンジニアのオノ セイゲンのふたりに話を聞きました。

= 音楽には力があります。それは単なる音ではないのです。ただし、音を介して「感情を時間軸に織り込んだ」もの、それこそが音楽です。サイデラ・マスタリングでは、リスナーの心に「伝わる音」の技術を提供しています。 =

OTOTOYでの『MASSA Ⅱ』購入はこちらから。
http://ototoy.jp/_/default/p/41747


「大切な事は水平線の下にある(その1)ー目の前に広がる世界がいかに違うかー」

マッシュ:特にポップスの音源だと、ミックス段階ですでにマスタリングされたように音量が大きなものも、やはり多いですけど。今回のアルバムは、録音からミックスを担当した藤井暁さんがすごくダイナミックレンジのある仕上げをしてくれましたね。

佐藤正治:そうですね。ダイナミックレンジについては、ずいぶん前になりますけど、ドラマー達の間で「大切な事は水平線の下にある。」ということを言っていたんです。みんな上へ上へと音量を詰め込むことばかりやるけれど、大切なことはもっと下の方にある。だから、その部分をもっと充実させるべきだって。そういうのと同じようなことを今回、「MASSA Ⅱ」のセイゲンさんのマスタリングを聴いて改めて思い出しましたね。

オノ セイゲン:その会話はドラマー同士で?

佐藤:ドラマー同士です。先輩のドラマーといろいろ話している時、どのくらい大きな音量を出すことができるのかってことを話してたことがあって。実はね、全然もっと下のところに意味がある。上には天井、つまり上限があって、無音から上限の間をどのぐらい豊かに表現できるかっていうことが大切だという結論に達した。そういう表現こそがこれからのドラマーに大事になっていくっていうこと。20年ぐらい前に話していたんですけど、そのことを改めて思い出しました。

オノ:プロのドラマーが、まず音量とか良い音色を出せるのは当たり前だけど、安定してでかい音で叩けば良いかっていうと、そういう曲ってコンサートの中で必要なのはピンポイントで、少ないんだよね。そうするとその下の、つまり柔らかく、音色重視でたたけることが音楽として大切です。

佐藤:その中にどのぐらい深みのある音を表現できるかということが大切。そこの微妙な微細な変化というのを本当に人間は感じているので、演奏者はそれをもっと意識しなきゃと思いますね。

オノ:スティーブ・ガッドとか、すっごく小さい音量で、ただしごきげんの音色で、当たり前ですが完璧なバランスで叩くんですよね。

佐藤:そうですね(笑)。驚くほど小さい。

オノ:そして、ここはっていう決めのフレーズは、ほんのちょっと強く叩いただけで、メゾフォルテがぱっと抜けてくる。反対に若いドラマーも音色重視したら、そんなに力入れなくていいのにっていう場面もありますね。

佐藤:そう、だから、CDだって演奏を録って再現するという意味でいえば、一番大きい音は、もしかしたらCDの中で1箇所あれば良くて、そこに到達するところと、無音のところの、その間がどのぐらい充実しているかっていうことが重要ですよね。

オノ:今言った無音から一番大きい音、つまりダイナミックレンジはCDでいうと16ビット。ところがこの10年間、いわゆるボリューム戦争っていうのがあってね、もう波形を見るとソーセージ、羊羹のようになってて、それは16ビット分の階調を使っていない。ピークばかりに目がいってて、実質8ビットくらいですよ。

佐藤:そうね、板みたいにね。

オノ:この10年、20年間に本当に音楽をダメにした一番の原因と言えるのが、このCDのボリューム戦争です。そういうことが起こって来てしまって。マスタリングエンジニアは、クライアントに言われるままに音量を上げざるを得ないって。16ビットのダイナミックレンジの上は決まっているので、ピアニッシモでもなんでも上の方の8ビットくらいに全部押し込んでしまって、今おっしゃった「その間がどのぐらい充実しているか」階調が大事なんですが、下をどんどん押し込んてすごく狭いダイナミックレンジに仕上げてしまうんですね。カセットテープ並みのダイナミックレンジしかないのが多くなってしまった。聴くときにボリュームを少しあげればいいだけなのにね。

佐藤:出音が大きいと良く聴こえる、と言いますよね。

オノ:人間は刺激の強い方にながされちゃうんてす。プロデューサー、アーティスト立会いのもとで、念入りにミキシング完了しているのに、マスタリング時点で、それまでの流れをまったく知らずに最初からマキシマイザーみたいなのをかけて、エキサイティングな感じにしてしまうマスタリングエンジニアも居ますね。録音現場に居なかったエラい人が客観的意見と称して、A / B比較すると、もとのままより刺激の強い方、派手な方にひっばられてしまうんですね。もちろん、レベルさえでかければそれでいい音楽もあるんですが。表現の幅、音色という、音楽の本質的な部分が消えてしまわないようにやってほしい。

さらに、テレビは今世界的にデジタル放送になってから、ヨーロッパ・アメリカはー昨年から、日本も昨年から、ラウドネスコントロールっていうのが入ってきていますので、パッケージのメディア、CDとかでいくらレベルを詰め込んでも、そういうCDほど、放送では10dB以上落ちますから、結果的に安っぽ~い音になります。逆に小さな曲はMAの段階でひろってくれます。パッケージでもピークをフルまで使うっていうのは、もう恥ずかしくてできないね。ハイレゾ配信でもそれは始まってて、典型的なのは、ポール・マッカートニーの新譜のCDはレコード会社の意向として、まだイギリスとかはハイレゾが一般的というわけではないので、詰め込んだわけです。で、e-onkyoでも買えるハイレゾ配信の方は全然波形に余裕があるんですよ。全然違う波形でもっとダイナミックレンジのある仕上がりになっている。どっちが本物かというとね、今も言ったようにハイレゾの方です。

佐藤:絶対そうだよね。

オノ:これってまあ、実際にオーサリングする方としては、2種類作るのって大変なんだよね。

マッシュ:でも逆に2種類聴けるわけじゃないですか。聴き比べると、これは僕の嗜好趣味の部分ですけど、今回の作品だったら僕だったらやっぱりこっち(ダイナミックレンジのあるテイク)を選ぶなと思っていた方を、佐藤さんも選ばれたなーっていう感じがありますね。

佐藤:なるほどねー。

マッシュ:でも、お客様によっては、やっぱり音色とかというところよりも別の基準で選んだんだろうなって方もいらっしゃいますね。

佐藤:僕自身は演奏家なので、ものすごく広いダイナミックレンジの中で暮らしているんだけれど、CDという限られたダイナミックレンジをどういう風に扱うかという意味では、論理的なことと体感が一致していない部分があるわけなんですよね。今回2種類のマスター作っていただいて、こうやって2つを聴き比べることによって、分かっているはずなのに、目の前に広がる世界がいかに違うかということに、ある種の打撃を受けるというか。今回セイゲンさんにマスタリングして頂いた MASSA は、僕と細井豊と太田恵資の3人が完全に拮抗しているバンドで。藤井さんも仰っていたんだけれど、実は、3人いたら3人が全く対等に演奏してるグループって少ないんですよね。そこが MASSA のとても面白いところなんですが。拮抗した3人がどのぐらい微細な音量や音色のコントロールをしながら演奏しているか。変化する3つの音が紡ぎ合わさった状態であるからこそ、人の心を動かす力が生まれるということを改めて感じさせてくれるレコーディングでした。

オノ:またそれを本作を録音したエンジニア藤井暁さんが上手くとらえているんだよね。

佐藤:そうなんですよ。

オノ:ミックスといいね。彼はやっぱり元々劇場から来ている人なんで、ステージでおこる生音、演奏というのを、まるで仙人のようにわかっていてね。藤井さんもCDの録音をいっぱいやっているけど、本当に繊細に、しかも生演奏と同じだけのダイナミックレンジで録音、ミキシングされてます。要するに、当たり前なんですが「演奏そのまま」を捉えています。簡単ではないんですが、音が出ているとおりに録られている録音ですよね。

佐藤:奇跡的な、素晴らしいミックスだと思いますよね。それを終えて、今は、、、

オノ:どこかにボランティアに行ってしまった。東北を超えて、宇宙のどこかに。

佐藤:(笑)。宇宙のどこかにね...。あの人は、天使じゃなかったか、とか、Twitterとか見るとさ、僕らの知り合いも、人間じゃなかったとかいろいろ書いてるけど。

オノ:またふらっとスタジオに来そうですよね。


関連リンク:
OTOTOYインタビュー: ヒカシューの佐藤正治率いるMASSA、過去の2作がハイレゾで蘇る!

------------------------------------
4/23(水)MASSAライブ
佐藤正治(Per.Vo.) 細井豊(Key.VO.) 太田恵資(Vln.VO.)
open 19:00 / start 19:30
会場:代官山 Simple Voice
TEL:03-6416-3107
住所:東京都渋谷区代官山町14-10 Luz代官山B1
料金:一般予約:¥3000 当日¥3500  
学生¥2500 (各+1ドリンク)
MASSA website http://ok-massa.com/massa/
------------------------------------


0 件のコメント:

コメントを投稿